ニュースレター

2017-01-31
Newsletter January 31, 2017: 在米日系企業・子会社の人事制度統合について
日本企業が米国市場に進出する場合、概ね、①現地法人や支店を立ち上げて市場を開拓する。②子会社を買収して事業拡大を図る。という2種類の方法がありますが、今回は後者に関連する人事課題について述べたいと思います。

現在、日本企業の本社では、世界中のグループ子会社に戦略・ビジョンを浸透させるとともに、世界中のグループ会社に在籍する管理職のサクセション・プランニングを構築しようと努力しています。これこそが、いわゆる「グローバル人事制度」の構築です。この流れに呼応して、在米日系企業でも米国のホールディング会社において、 米国全体の子会社に在籍する管理職のサクセション・プランニングを実施する動きが出ています。実際にサクセション・プランニングを行うとすれば、米国の子会社間で管理職の人事異動が起こってきます。

その場合に管理職側から問題にされるのが、①異動「元」と異動「先」の両方のポジション・レベルの整合性はできているのか? ②きちんと報酬レベルが維持され(上がり)、インセンティブやベネフィットで不利はないのか? ③これまでと同じような人事評価制度で評価されるのか? ④そもそも、企業風土に問題がなく安心して働ける環境なのか? という点です。仮に異動先のポジションの職責レベルが低かったり、報酬が下がったりすると、誰も異動しようとはしません。また異動先の人事評価制度が貧弱だったり、現状よりも不利になる人事評価制度だったりすれば、誰もが異動に消極的になります。さらに子会社間で企業風土の融合がなされず、例えば異動元はファミリー的な雰囲気の企業である一方で、移動先は個々人の競争が激しい企業であるなら、組織へのスムーズなフィットがなされずに、異動が失敗に終わる可能性があります。

このような事態が起こらないように、子会社間の人事制度を綿密に統合させる必要があります。これを成し遂げるには相応の労力と時間が求められます。米国ホールディング会社の社長や人事統括役員がリーダーとなり、実務的にイニシアティブをとることができる専門の人事コンサルタントを登用して、中長期的プロジェクトを組みます。そして子会社の社長・人事マネージャーを巻き込み、さらには日本本社のグローバル人事部門とも協力しながら作業を進めてゆきます。

具体的なプロジェクト内容としては、第一に、日本本社のグローバル人事部門で策定された世界的なグルーブ経営ビジョンに合致した米国全体の経営ビジョン・人事ビジョンを策定します。

第二に、米国全体の子会社の管理職ポジションの共通グレードを策定します。実際には、これが最大の仕事になると考えられます。米国内に子会社が何社か存在しても、例えば1社は製造を行う従業員500人の会社である一方、別の会社はマーケティングのみを行う従業員数10人の会社である場合、同じアカウンティング・マネージャーのタイトル(肩書き)を持っていても、米国子会社の管理職ポジションの共通グレードでは、異なるグレードに位置づけられる可能性が高いです。要するに、各子会社の規模(従業員数・売上高・経常利益など)、および、管理職ポジションの職責を精査し、実際に共通グレードの箱、および、各管理職ポジションがどの共通グレードに位置づけられるかを測るスキームを設計して、子会社管理職ポジションの共通グレード付けを行います。もちろん共通グレードの箱は、日本本社のグローバル人事グレードとの整合性をつけておく必要もあります。

第三に、報酬制度の統合も行います。基本給に関してはこれまでの職責に基づく報酬レベルを維持することができますが、インセンティブ制度やベネフィット制度に関しては子会社間でバラバラになっているところが多いので、最も卓越した制度を持っている子会社をモデルとして、その他の子会社の優れた部分も含めながら、制度の統合を行なっていく必要があります。

最後に、各子会社には長年積み上げてきた風土があり、プライドを持って制度を運用してきた人事マネージャーがいますので、人事制度を統合する際にぶつかり合うケースが多々あります。そのような面をうまくコントロールして、シナジーを生ませながら、誰もが納得いくレベルの高い制度を構築していく必要がありますが、そのために不可欠なのが子会社の人事制度統合を得意とする人事コンサルタントの登用です。小職は、子会社の人事制度統合を成功裡に収めてきた経験を数多く有する人事コンサルタントですので、どうぞお気軽にご相談ください。

中尾 和伸
中尾国際人事コンサルティング
オーナー/国際人事コンサルタント

【略歴と連絡先】
関西学院大学社会学部卒業後、関西経営者協会(現・関西経済連合会)勤務を経て、ピッツバーグ大学経営大学院にてMBA取得(戦略企画、 組織・人的資源管理専攻)。数社のコンサルティング会社等を経てデロイト・トウシュ・トーマツ入社。東京、ニューヨークにて人事コンサルティング・ マネージャーを務めた後、2004年に独立。以来、ニューヨーク地区を拠点に全米の日系企業および日本本社に対して組織・等級・報酬・評価・人材開発を中心とする人事制度ならびにグローバル人事制度の構築・導入等の人事コンサルティングを提供している。
◎連絡先: 201-947-3651
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