ニュースレター

2018-01-24
Newsletter January 2018: 2018年リーダーシップ術キーワード “EMPATHY”
政権の交代以来、Empathyという言葉をよく耳にするようになった。Empathyという英単語にピッタリ当てはまる日本語の単語が見付からない。辞書では感情移入、共感、という単語が見られるが、特にリーダシップという分野においては単なる「共感」以上のアクティブな意味合いが含まれているパワフルな単語だ。社員の採用やリテインの成功に最善の尽力が必要だと予想される今年は、組織のリーダーシップが問われる年でもある。そのリーダシップ術のキーワードは、Empathyではないだろうか。

 昨年4月18日に発令された大統領令“Buy American and Hire American”により各種就労ビザの審査が厳格化された。中でもH1Bビザの受けた影響は深刻だ。非移民法が改定されたわけではないのでビザ自体に何ら変化があるわけではないが、“外国人が安い賃金で働くからアメリカ人の雇用や昇給の機会が失われている”として、H1Bの承認の対象になるのは、高度なスキルを保有した申請者、高額な賃金を約束された専門職につく申請者であるべきとの見解を基に、移民局及び世界中の大使館、領事館に承認に関する判断基準に関するマニュアルが配布された。その結果、昨年のH1Bビザ申請は、前年の2倍以上の却下、申請内容の立証が不十分として追加資料の提出が求められるケースも多発。審査にかかる所要時間も長期化し、現在でも結果待ちの申請者も少なくない。却下された例を挙げると、4大監査法人の一社では、95件が却下、却下された申請者の申請ウェージの平均は11万5千ドル。

 企業のH1Bビザスポンサーに対する考え方に大きな影響を与えざるを得ない結果だ。また、今年は昨年の4~5倍は移民局が監査のために企業を訪問する予定だと発表されており、中小企業がターゲットになっている。移民局の監査官が抜き打ちで企業を訪れ、申請されたビザの内容に詐欺行為はないかどうか(給与額、勤務スケジュール、業務内容など)を徹底的にチェックするとされている。また、これまで更新時においては最初に承認された申請内容がそのまま承認されてきたが、今後は更新も新しい申請として受け付けられ、申請ウェージや業務の専門性などに細かなチェックが入れられることから、更新だからといって安心してはいられない。

 日本の本社への報告業務や連携業務、在米日系マーケットが顧客層であることから特定の技術を持った社員の確保が重要な日系企業にとって社員採用及び雇用において就労ビザ戦略は重要な鍵の一つではあるものの、現政権の外国人への就労ビザ承認に対する姿勢がこのような状況では、今後の採用、雇用に関する考え方を見直さなければならないことになりそうだ。

 好景気にも押されてジョブマーケットは求職者優位。新入社員の採用、教育には膨大なコストがかかり、また、既存の社員への影響も少なくなく、採用ミスマッチを避けるべく、社員採用プロセスはこれまで以上の入念な準備や計画が大切なことは言うまでもない。

 また、社員のリテインにも相当の注力が必要だが、就労ビザのスポンサーが不要な社員にばかり気を取られるのも危険だ。ビザのしばりがあるので転職ができないと被害妄想を抱く社員が増えることで、会社全体の士気が下がり生産性の低下につながりかねない。

 社員採用においても、また、社員のリテインにおいても、成功の鍵は“Manager”が握る。縦割りトップダウン型のリーダシップが過去の習慣となりつつある現代において、リーダーの形は様々。組織図のあちらこちらにリーダーが存在し、リーダーのタイプも多様化した。外交的、何が何でも成功しなければならないというアグレッシブな姿勢の持ち主とは限らない。では、多様な姿を持つ現代のリーダーが共通して持ち合わせなければいけないものは何だろうか。

 最近目にしたあるオンラインの記事に、ギャラップ社が7000名超の米国成人を対象に行った離職理由調査において、半数の回答者が”to get away from their manager to improve their overall life at some point in their career.”を選択していることが書かれていた。会社を去るのではない。マネージャーから離れるのだ。ギャラップ社のCEOは社員のターンオーバーの激しい組織について、このように語っている。“経営者にとって最も需要な決断はマネージャーの選択だ。他の決断は、ミスがあっても取り返しがきくものだが、マネージャーの人選ミスには手当がない。社員に報酬やベネフィットで厚遇しても、効果はない。”ギャラップ社が何十年にもわたり2500万人以上にインタビューを行って積み上げたデータを基にしたCEOの見解だ。にもかかわらず、企業は同じ間違いを繰り返している、と記事は続く。

 では、成功するマネージャーの資質とは?様々な見解があるが、必ず含まれるのが、冒頭にあげた、EMPATHYだ。

 「Empathyは右脳がつかさどる機能だが、感情のお話しだけで終わるものではない。Empathyは人と人の関係をスムーズに動かす潤滑油、そして信頼の絆を生み出す重要な貨幣だ。Empathyは、ある状況において相手が“如何に”、そして“何故”、そのようなリアクションに出るのかを理解し認知する能力、相手がどんな懸念を抱えているのかを察知する能力だ。」と、誰かがどこかで説明をしているのを読んだことがある。単なる「共感」という和訳では足りないと私が感じる理由がお分かりいただける説明ではなかろうか。

 昨年のワシントンポスト紙の記事では同様の調査結果がレポートされていた。その調査では3名に1人がEmpathyが感じられる会社なら転職したい、40%が長時間労働も厭わない、56%が自分の存在に価値を認めてもらえれば転職はしない、と回答したそうだ。社員にとってペイチェックが最重要ではないということだが、この事実に気づかないマネージャーが多いとの研究結果が出ている。「役職についていない時は、他人の言外の表現、表情や動作、言葉の選択などにも敏感なもの。サバイバルに必要だからだ。パワーを手にすると社員がどう感じるのかを察知する能力が減退する傾向にある。」

 多くの管理職がEmpathyは重要だと考え、社員に十分なアテンションを持って接することのベネフィットを認識しているが、そのEmpathyを社員に伝える努力が足りない、と同記事は続ける。同じ調査によると、上司が何よりも利益を挙げることが重要だと考えている、という回答が31%に上った。また、60%の経営者は自分の会社はEmpatheticであると思っているのに対し、同意する社員は24%に過ぎない。この現象をEmpathy Gapと呼ぶ。この管理職と社員の間に存在するEmpathy gapを埋めるためには、マネージャーEmpathyの技術を磨くことが必要だ。

では、具体的にどんな行動によってEmpathyを社員に伝えることができるのだろうか。SHRM(Society of Human Resources Management)のボードメンバーは最近のSHRMのコラムで”Empathy is not a soft skill. It’s a business skill. 社員の言葉に耳を傾け、オフィスに閉じこもらずによく職場を歩き、社員にとって近づきやすい存在であることを誇りとしている。“と語る。社員の声に耳を傾ける、単純なことのようだが、実はリスニングスキルが身に付いていないマネージャーは多い。他人の声に耳を傾ける機能には自分自身のフィルターがかかるものだ。物事に対する自らの意見や、相手の考えに同意できるかどうかといったフィルターだ。社員にEmpathyを伝えるためには、以下のこのフィルターをかけずに社員の言葉に耳を傾けることができるのかにある。アクティブに社員の言葉を聞き、質問を交えて相手の言葉を理解していること、興味を持っていることを示すこと。あるエグゼクティブコーチによると、優秀なリーダーは、社員にフィードバックを与えるのはもちろんのこと、社員からのフィードバックや批判にも真摯に耳を傾けるという。

 考えてみれば、感情や伝えたい事の全てを言葉で表現しない日本人は、言外に含まれた情報を読み取り相手に敬意をもって接しコミュニケーションを図ることで千年以上に渡って国家を存続させてきた民族ではなかろうか。日本人の血にはこのEmpathyが流れているはずだ。相手がアメリカ人であろうと、アメリカ育ちの全く考え方の違う世代の日系人であろうと、また、アメリカ以外の国から移民してきた他国人であろうと、同じことだ。日本人のEmpathyこそ、今のこの時代のリーダーシップに必要とされている要素なのであれば、日本人がアメリカで経営者として、管理職として大成功する可能性は大いにあるはずだ。