ニュースレター

2010-07-01
Newsletter 10年7月
遡ること2005年3月、連邦最高裁はSmith v. City of Jackson を結審。その際、最高裁は雇用における年齢差別禁止法(Age Discrimination in Employment Act - ADEA)の下、40歳以上の従業員は高齢従業員に対する「異種扱い」や「差別するような規則・雇用慣習」から守られるべきであるとした。高齢従業員はそれ以前であれば差別を受けた事実を証明しなければならなかったが、それ以後は年齢による差別が故意に行われたかどうかの証明が必要でなくなり、結果として年齢差別訴訟が増えたのが実情である。

Smith v. City of Jackson 裁判の元となったミシシッピー州ジャクソン市では、警察署・消防署の給与システムを改定したのだが、新給与システムを導入した結果、警官と消防車発車係のポジションで勤続年数5年以下の従業員が5年以上の者よりも高い給与上昇率を得ることとなった。これに対し「ADEA違反である」として40歳を超える警察官と発車係の30人は以下2点を理由に訴訟を起こした。1) 隔離効果(disparate treatment):新給与プランは合理的な理由なく故意にある区分を設け、隔離(差別)することに繋がった。2) 異種扱い(disparate impact):新給与プランが導きだした数値は、故意ではなかったが、結果的には異種扱い(差別)となった。

ジャクソン市は第一審で勝訴し、最高裁でも原告の上訴は棄却された。但し、最高裁は棄却の際に「高齢従業員に対する年齢差別が起きた場合、雇用主はADEAに基づいて訴えられる可能性がある」と警告した。つまり、それまでの年齢差別への訴訟は1964年市民権法第7条をもとに起こされ、ADEA違反にて争われる事はなかったが、この時の最高裁の見解により、1)「年齢」は「人種・肌の色・宗教・性別・出身」と同様に、市民権法第7条にて差別することを禁止されているが、ADEAでも「年齢を理由に制限を加える」「従業員を区分する」などを違法行為と定める。2) 差別は実際に起こった場合だけに限らず、「異種扱いが起こり得る状況下」であっても該当する。3) 雇用主の人事アクションは、市民権法においては「ビジネス上の理由に基づく必要性」を証明するべきだとしているが、ADEAでも懐疑的な雇用主の人事アクションは「年齢以外での妥当な要素」を従業員が証明するべきであるとした。

年齢差別の挙証は雇用主ではなく従業員に求められる。従って雇用主が年齢差別をしたかどうかを従業員側が証明するのは難しい。しかし、雇用主は全ての人事アクションにこれまで以上の注意を注いでおくべきである。それは、解雇・人員削減・昇進・昇給・転勤など大半の人事アクションは、たとえ故意でなかったとしても40歳以上の従業員に影響を及ぼしている可能性が高いからである。

注意点として「健康・給与・退職・人員削減に関する事柄」「Smith v. City of Jackson 裁判における最高裁判所のADEAを基にした見解」などを考慮し、就業規則を見直ししておくことが挙げられる。尚、見直しに絡んでは人事専門家に相談するべきであろう。