ニュースレター

2018-04-18
Newsletter April 2018: 人事マネージメントにおけるドキュメンテーションの重要性
来週水曜日、4月25日は何の日かご存知でしょうか?National Administrative Professional Dayという日です。Secretaries Day ともAdmin Dayとも呼ばれている日で、毎年4月最後のフルウィークの水曜日と決まっています。どんなに小規模オペレーションのオフィスでも、雑用から資料作成、電話取り、訪問者の対応、郵便出し、荷物の受け取り、といった業務を担当する社員がいるものだと思います。華やかな職種ではありませんが、こういうサポート業務をこなしてくれる社員がいることで、実は大いに助かっているものではないでしょうか。サポート業務は、その成果をはっきりとした数字で表すのが難しい職務なため、アドミアシスタント個人が取り立てて表彰されたり褒められたりすることがなかなかないものだと思います。この機会を利用して大いに褒めたり、感謝の意を表してみてはいかがでしょうか。Happy National Admin Day!

さて、今回の本題です。

なかなか昇進できないある社員が、会社から差別待遇を受けているとEEOC(the Equal Employment Opportunity Commission=雇用機会均等委員会。人種、宗教、性別などのあらゆる雇用差別を防止するための行政活動をする米政府内の独立機関。)に訴えたとします。EEOCの調査員が、オンサイト調査を行うと電話をかけてきました。会社訪問を行って訴えを起こした社員及びその他の社員のファイル(personnel file)のレビューを行うという通知です。会社訪問は4日後です。

EEOCが調査に乗り込むということは、それなりに雇用主の不正行為や不行き届きを想定していますので、厳しい調査を覚悟しなければなりません。不正行為が見付かれば、訴えを起こした社員一人の問題にとどまらず、EEOCが何年も前に退職済の社員も含め、同様の待遇を受けたと思われる数多くの社員たちにアプローチをし団体訴訟を起こす可能性が高く、一筋縄ではいかない重大な問題を抱えることになりかねません。訴えられたのがあなたの会社だった場合、EEOCの調査を切り抜けられる準備はできてきますか?昇進できない社員は、昇進できない合法的な理由があることを証明できますか?

日常茶飯事に起きることではありませんが、絶対に起きないとは言い切れません。今年1月にあったEEOCの発表によりますと、2017年度にEEOCのトールフリー番号にかけられた電話は54万件、各地のオフィスには15万5千件以上の電話を受けています。またEEOCが受理した職場における差別待遇の訴えは8万4千254件、和解及び訴訟で原告が手にした金額は合計で3億9千8百万ドルにのぼっているのが現実です。あなたの会社にEEOCの調査員から明日にも電話がかかってくるかもしれない、それが現状です。

EEOCの調査に対応するためには、まず、社員全員の個人ファイルpersonnel fileが存在すること、ファイルで保管されている情報は正確で適切に保管されていることが何より重要です。ファイルがない、またはファイルが存在していても保管されている情報が正確ではない、不十分な記録だった場合は、雇用主は様々な責任を問われることになるでしょう。

Personnel Fileとは各社員の雇用上のあらゆる事象のドキュメンテーションのファイルです。雇用時の情報から、人事考課、勤怠、表彰、懲戒、研修、業績不良、突出した貢献等々、ネガティブな内容であれポジティブな内容であれ、出来事の事実と会社の対応を記録しておくことは、管理職として、人事担当者として大変重要な業務です。大変重要な業務でにあるにもかかわらず、自ら現場の業務も担当するプレイングマネージャーでいらっしゃると、多くの職務の中にこのドキュメンテーション業務が埋もれてしまい、手が付けられないうちに忘れてしまう、という状況に陥ってはいませんか?忘られがちなこの業務ですが、実は、当局や法律によって義務付けられているもの、会社の就業規則によって義務付けられているもの、ドキュメンテーションをしておくことで処々のリスクのヘッジになる、といった会社の運営上重要なエレメントと言っても過言ではありません。

効果的なドキュメンテーションを行うには以下の4点に留意することが効果的です。

1) 法的観点からの印象を意識する:訴訟になった場合に証拠書類として扱われる可能性があるので、判事や陪審にどのような印象を与えるかを意識する。

2) 客観的な視点から書類を作成する:書類作成者の偏見や個人的な意見でコメントが作成されていないように注意する。客観的な表現に徹する。

3) 推定ベースの表現は避け、事実に基づいたものとする。:特に人事考課上の記述は事実に基づいた表現に説得力があるもの。“勤務態度が反抗的”→“上司の指示に従わない”。“遅刻が多い”→“4月4日、5日と連続20分以上の遅刻”後に社員に対し、何を基準にしているのか説明を必要とすることがないように。反抗的とは、何を基準にして反抗的と判断されるのか?遅刻が多い、とは、何回目からが多いとされるのか?

4) 記述、記録は正確に。社員が内容を確認している資料には必ず社員の署名があることを確認する。誤記や社員の受領署名が欠けている書類は、労働局やEEOCの監査、訴訟時に大きな痛手となり得る。
また、全ての書類には、書類の作成日、改定日、書類作成者の氏名及び署名、複数ページに渡る場合はページ番号の記載、証人が必要な書類の場合は証人の氏名及び署名を含み、後日調査が必要になった場合に対応できるようしておくことも重要なポイントです。

Personnel Fileでファイルされる社員の資料とは-

1)雇用時の資料:応募のレジュメ、アプリケーションフォーム、オファーレター、ジョブディスクリプション、I-9、W-4、ハンドブックや各種ポリシーの受領書等。全ての書類に社員の署名が必要です。採用プロセスにおける面接査定書やバックグラウンドチェックは別ファイルにて保管をしておくことも重要です。採用前の情報と就労開始後の情報は同様の性格のものではなく用途や目的が異なることから、混在させておくことに意味がありません。

2)報酬に関する資料:給与及び就労時間情報、ペイロールの記録、タイムシート、控除項目、オーバータイムの記録、また同等のポジションで就労する男女間で給与額に差がある場合はその理由の記録、これらはFLSA(Fair Labor Standard Act)やEqual Pay Actと言った法律でドキュメンテーションが義務付けられているものです。その他、出勤の記録、コンペンセーションヒストリー、昇給や減給のノーティス等の資料も労働局からの監査や訴訟時の資料として重要な役割を担う書類です。

3)業績考課に関する資料:不当解雇の訴訟時にはこの資料が整っていると弁護の協力な武器として効力を発揮するものです。人事考課が定期的に実施されていたこと、効果の基準が明確であるかどうか、社員が基準を理解していたかどうか、基準が満たされなかった項目、業績不振または勤怠に問題のある社員に対し改善の機会を設けたかどうか、社員が基準を満たすことができない場合にどのようなアクションが取られるかを明確に社員に示していたかどうか、効果書類にはこれらの内容が事実として記述されていることが重要です。また、人事考課の内容を社員が理解したことを証明するために、効果書類に考課者及び社員の氏名、効果の日付を明記することも忘れてはいけません。

4)懲戒資料:効果資料同様に、懲戒に関してのドキュメンテーションを適切に行うことで、訴訟から企業を守ることができる重要な資料です。口頭による懲戒も文書による懲戒も、問題が発生した際に即時に対応し、適切に記録を取ること、定期の人事考課時まで、注意を待つと、逆にその行為が管理職や会社に社員の更生や改善を望む姿勢が見られないことから、報復行為や差別行為とみなされる可能性を孕むため要注意です。また、警告を受けた社員が警告を受けた内容を理解したことを証明するために、警告書には社員の署名及び日付の記入も必須です。

5)その他:研修関連資料、福利厚生関連資料(健康保険等の申し込み書や休暇申請書等)、エンプロイーリレーション関連資料(コーチングやカウンセリングセッションの記録、表彰の記録、意見書、苦情書等)6)離職時の資料(退職届、イグジットインタビュー、最終人事考課、最後の給与支給の明細、コブラ資料等)
こういった書類は、EEOCや移民局、労働局等の監査直前に簡単に準備できるものではありません。都度、ドキュメンテーションを行わなければ、適切なPersonnel Fileは構築できないのです。
また、ドキュメンテーションを義務化する法律の導入があれば、法律の施行に合わせて対応しなければなりません。

ニューヨーク市では、この半年の間にこのドキュメンテーションが重要な役割を担う2つの新しい法案が可決し、一つは7月に、もう一つは10月に施行されます。
7月18日に施行されるのは条件を満たす社員に、1年に2度、“personal event”として同法が定義する3タイプの理由(子供や障害をもつ同居人の看護、社員及び家族・介護者が生活保護に関する法的手続きやヒアリングに出頭しなければならない場合、病欠法によってカバーされている全ての理由)により、一時的に就労スケジュールの変更をすることができる権利を保証するもので、”スケジュール変更“には就業時間の変更や有給・無給休暇を利用しての欠勤、シフトの変更、自宅勤務を含むワークロケーションの変更を含みます。

これらの条件を満たす限り特別の場合を除き、雇用主は社員からのリクエストを却下することはできません。社員は文書にて申請を必要があり、この申請書には申請を行った日及びPersonal eventによるスケジュールチェンジ申請であることが明記されていなければならず、また雇用主は、申請に対する承認・却下のレスポンスを文書にて、社員の申請したスケジュールチェンジを承認するかどうか、却下の場合の理由、残存スケジュールチェンジ回数を明記して社員に通知することが義務付けられます。同義務の違反には罰金が課せられます。
10月15日に施行される法律は、ニューヨーク市の人権法に追加されるもので、社員が、同法によって指定される4タイプの理由(宗教、ディスアビリティー、妊娠・出産に関連したメディカルコンディション、ドメスティックバイオレンス・性犯罪及びストーカー犯罪の被害者)により雇用主に依頼常識的に判断して対応可能であるとみなされる範囲での就労上の便宜や調整(“reasonable accommodation”) をリクエストした場合、雇用主は社員と”cooperative dialogue”=協調的な対話をもって検討を行い、会社の最終的な決断について、文書にて社員に通知をすることを義務付けており、この義務を怠った場合、人権法における差別が行われた証拠とみなされる危険性を孕むものです。”Reasonable accommodation”には早退や遅刻といったマイナーなスケジュール変更も含まれますが、このような場合も社員と雇用主の間でcooperative conversationが交わし最終決断を社員に文書によって通知をしなければならないものでしょうか?答えはYesです。

上述の2つの法律はニューヨーク市において今年新しく施行される法律ですが、法律で義務付けられていなくても、人権や差別、ハラスメント、成績不良に関わる社員とのコミュニケーションに関してはドキュメンテーションを怠ると、後々大きな問題として跳ね返ってくる可能性があることから、いずれの州や都市の雇用主にとってもドキュメンテーションの徹底は必要不可欠なプラクティスです。
そこで、忘れられがちなこのドキュメンテーションを如何に日常の業務に織り込むことができるのかを検討されてみてはいかがでしょうか。

1) 各種ポリシーの適用や人事考課の実施方法に明確なプロセスが存在するかどうか。

2) それらのプロセスに関し、マネージャーも社員も正確に理解ができているかどうか。

3) ドキュメンテーションの方法が社内で統一されているかどうか。(フォーム?誰が保管?どんなフォーマットで保管するのか?等)

4) ドキュメンテーションの方法が複雑・煩雑ではないか?

5) 自己監査を定期的に行う。

4)のドキュメンテーションの方法に関しては、人事アドミ業務オンライン化の検討もお勧めです。人事アドミ業務ソフトウェアーの開発が進む昨今、巷には便利なシステムが数多く存在します。企業のサイズやニーズによって、どこまでをオンライン化することが適切なのか、導入にかかるフィーがリーズナブルなものなのかどうか、本当にオンライン化が必要なのかどうかも含め、レビューを行う価値は十分にあるのではないでしょうか。
5)の自己監査業務は、私どものような人事アウトソーシングサービス会社や弁護士に定期的に依頼を行うことも効果的だと言えます。新しい法律が導入されていたことを知らずにいれば、監査が意味をなさないこともあるものです。

ドキュメンテーションの重要性をご理解いただけましたでしょうか。Personnel fileを整えておられない場合は至急のご対応をお勧めします。