ニュースレター

2019-08-28
私はエグゼンプト? あなたはノンエグゼンプト?
米国での人材採用において必ずといってよいほど見聞きする、エグゼンプト(Exempt) / ノンエグゼンプト(Non-Exempt)という言葉。正しく理解されていますでしょうか?エグゼンプトとノンエグゼンプトは米国の連邦法である FLSA(The Fair Labor Standards Act)=公正労働基準法で定められている従業員の区分けです。1週間の合計実働時間が40時間を超える場合には通常賃金の1.5倍のオーバータイムレートを適用して賃金を支払うことが義務付けられていますが、エグゼンプト従業員はこの規制の適用対象外となり、ノンエグゼンプト従業員は適用対象なります。

「エグゼンプト従業員か ノンエグゼンプト従業員としての採用かは社内で判断を行っている」。こんな声も聞こえてきそうです。給与条件と職責条件により導き出される従業員の区分けはエグゼンプトかノンエグゼンプトのいずれか一つしか答えがありません。そしてそのエグゼンプトかノンエグゼンプトの判断は雇用主が決めるものではなく、FLSAに照らし合わせて判断されます。

エグゼンプト vs ノンエグゼンプト
エグゼンプトという言葉を聞くたびに、学生時代に習ったbe exempt from(適用されない、除外される)の熟語を思い出しますが、FLSAにおけるエグゼンプトもこの理解で進めると簡単に覚えることができます。エグゼンプトはその意味が示す通りでFLSAのOvertime Pay(時間外賃金)規定の適用対象外いうことで、つまりはOvertime Payなし=固定給ということになります。ひょっとしてMinimum Wage規定も適用されない=給与はいくらでもよい、となるのでは?と思われた方もあるかもしれません。給与に関してMinimum Wage規定の適用対象外ではありますが、エグゼンプトとみなされるには一定金額以上の給与を支払うことが規定されています。
それではノンエグゼンプトはどうでしょうか?非適用対象外という二重否定のややこしい表現になってしまいますが、要は適用対象ということです。Minimum Wage規定、Overtime Pay規定の適用対象になりますので、オーバータイムが発生した場合には時間外賃金支払いの対象となります。

FLSAの規定により1週間(Workweek)あたり合計実働時間(Hours Worked)が40時間以上を超えた場合は通常の時給の1.5倍のオーバータイムレートを適用して賃金を支払う必要があります。よくある間違いが就業時間後の実働時間のみオーバータイムレートを適用することです。例えば午前9時~午後6時勤務の場合に午後6時以降の実働時間のみをオーバータイムの対象と捉えることです。確かにこの理解自体に間違いではないのですが、午前8時30分から勤務を開始した場合は午前8時30分~午前9時の30分間も実働時間とカウントしなければなりません。

また、Workweekについてですが、1週間を連続する7日間(24時間× 7日=168時間)と捉え、何曜日の何時に始業を開始し、何曜日の何時に終了したとしてもその合計実働時間が40時間であれば、オーバータイムは発生しません。月~金勤務が一般的な為、感覚として、土曜日や日曜日に勤務するとオーバータイムという気がしてしまいますが、水曜日~日曜日の5日間をそれぞれ8時間ずつ合計40時間勤務する場合にはオーバータイムではありません。土曜日、日曜日は時給が高いという状況があれば、それは雇用主の裁量で判断しているものであり、法律で定められているものではありません。

FLSAとは?
FLSAはThe Fair Labor Standards Actという名称の連邦法で日本語では公正労働基準法と訳されます。FLSAが規定する内容には以下のものがあり、連邦労働局(US Department of Labor = DOL)が管理を行っています。

● Minimum Wage(最低賃金)
● Overtime Pay(時間外賃金)
● Record Keeping(就労時間の記録)
● Child Labor(未成年の就労)

度々メディアに取り上げられる最低賃金の引上げの話題や、時間外賃金の未払い訴訟などの争いもこの法律を基に議論が展開されます。それゆえ、FLSAは時にWages and Hours Bill(賃金と時間法)とも呼ばれています。但し、注意が必要な点があります。FLSAは連邦法ですが、州の法律がこれを凌駕することもあります。例えば連邦の最低賃金である$7.25/h。州によっては$7.25/h以上の賃金の支払いが義務付けられており、2019年7月1日時点の最低賃金(州)には下記の様に設定されております。

ニューヨーク州:$11.10/h
ニュージャージー州:$10/h
イリノイ州: $8.25/h
カリフォルニア州 : $11/h
ミシガン州 : $9.45/h 
マサチューセッツ州: $12/h
その他の州の最低賃金につきましては、下記URLよりご確認頂くことができます。
(https://www.dol.gov/whd/minwage/america.htm)

最低賃金の設定は様々で、実に約30州が連邦以上の時給金額を最低賃金に設定しています。また、連邦政府と同等の設定をしている州としてはテキサス州、ジョージア州、ペンシルバニア州、ケンタッキー州などが挙げられます。州だけではなく、郡や市などで更に厳しい基準を設けている地域もありますので、この点には十分ご注意ください。また、同様にオーバータイムの規定についても州基準が連邦基準を上回ることがあります。代表的な州はカリフォルニア州です。1週間(Workweek)単位で40時間と規定されている連邦法を凌駕する州法が存在し、1日単位で8時間以上のオーバータイムが発生した場合(1週間で40時間以内の実働時間であっても)通常時給の1.5倍のオーバータイム支払いの対象となります。

職責条件(Job Duties Test)と給与条件(Salary Test)
エグゼンプトとノンエグゼンプトの判断はどのように行うべきなのか?ここが一番重要な点です。エグゼンプトとみなされるためにはFLSAで定められている職責条件と給与条件を満たすことが求められます。特に職責条件は長くなりますので、今回は一部のみのご案内でその他は割愛させて頂きますが、ご興味のある方はお問合せ下さい。同じ役職であっても雇用主の規模や業種により、職務内容が異なるということが考えられますので、役職のみでは職責条件を満たすか否かを判断できないという点も重要です。

1. Executive Exemption
職責条件:組織の経営や部署や関連会社の経営管理が主要な職責であることなど。
給与条件:固定給制で週給が$455以上であること

2. Administrative Exemption
職責条件:オフィスワークないしは非肉体労働で、会社の管理や会社、顧客の企業運営に直接かかわる職務が主要な職責であることなど。
給与条件:固定給制で週給が$455以上であること

3. Professional Exemption
職責条件(Learned Professional):主要な職責は高等な知識を要する業務遂行で、主に知的とみなされる特性で、常に自己裁量や自己判断を要する職務であること。科学的または学問的な分野の高等知識を要する職務であること(法律、医学、薬学、神学、会計学、保険数理学、エンジニアリング、建築学、教育学、物理学、化学、生物学)。職務に必要とされる高等知識は一般的に長期にわたる専門的な知的指導を受けることによって身に着けることができるものであること(医師、弁護士、教師、会計士など)職責条件(Creative Professional) : 主要な職責は芸術的ないしはクリエイティブな尽力を必要とする分野において、発明、創作力、独自性や才能を必要とする業務遂行であること。給与条件(Learned Professional, Creative Professional共に):固定給制で週給が$455以上であること

4. Computer Employee Exemption
職責条件:コンピューターシステムアナリスト、コンピュータープログラマー、ソフトウェアエンジニアまたは同等のスキルを要するコンピューター関連の業務で、特定の職務を遂行することなど。
給与条件:固定給制またはフィーベースで週給$455以上であること。時給制($27.63以上)でもも認められる。

5. Outside Sales Exemptions
職責条件:主な職責は営業活動。または、クライアントやカスタマーが使用料を支払う各種サービスや施設利用のオーダーを受注する業務であることなど。
給与条件:なし。ベースサラリー額が$0でも認められる。

6. Highly Compensated Employees
職責と給与条件:週給$455の給与支給条件を含み、年収が$100,000以上の従業員で、オフィスワーク/非肉体労働に従事し、通常、Executive, Administrative, Professional Exemptionsの職責条件を含む業務の一つ以上を行うこと。

職責条件と給与条件を満たすホワイトカラー従業員はエグゼンプト, また身体的スキルや体力を使って繰り返し作業を行うブルーカラー従業員と、上記職責条件と給与条件を満たさないホワイトカラー従業員は基本的にノンエグゼンプトとみなされます。ノンエグゼンプトの職種例としては大工(Carpenters)、電気技師(Electricians), 機械工(Mechanics)などが含まれます。またご参考までに警察官や消防士、緊急医療隊員などの緊急救援隊員Exemptionの対象と見なされておりません。

最低賃金の見直しの可能性

上述しました内容は2019年8月27日時点の内容で、今後最低賃金の引上げが実施される可能性もあります。事実、今年の3月に連邦労働局 (US Department of Labor)がエグゼンプトの給与条件である週給$455(年収換算では$22,360)を$679(年収換算では$35,308)に引き上げることを提案しておりますが、現時点で結論に至っておりません。その他にもHighly Compensated Employeesの現行の年収である$100,000を$147,414へ引き上げを求める提案を行ったり、給与の引き上げ状況を定期的に見直すなどの提案が行われております。残業代未払いの訴訟の多くがエグゼンプトかノンエグゼンプトかの判断を見誤るMisclassificationにより起きています。故意であろうと、そうでなかろうと、訴訟が起きれば未払いの残業代や弁護士費用、罰金などの金銭的な損害のみではなく、従業員との信頼関係が失われてしまいます。間違った判断を行うことは後々の企業運営の足枷となってしまいますので、FlSA関連の日々の情報収集を行われることをお勧め致します。

山田明宏
Midwest – South Regional Sales Manager
Actus Consulting Group, Inc.