ニュースレター

2019-03-27
Newsletter March 2019: ジョブディスクリプション・ジョブディスクリプション・ジョブディスクリプション
このコラムを読んでいただいている方々は従業員のマネージメントに少なからず関わられる方々だと思います。直属の部下を何名か抱えておられると、避けて通れない業務の一つが人事考課。人事考課は従業員を育成するための重要なツールであり管理職者にとっても従業員にとっても面倒で厄介な割には意味のない雑用になってしまってはいけないものです。

そもそも、個々の従業員が自分の組織の中での役割を理解し、「一体何が自分の業務なのか」、「会社から何をどのくらい達成することを期待されているのか」、「会社の期待に応えるためにはどんなスキルや能力、知識が必要なのか、日々のタスクは何?」、といったことが理解できていなければ、組織の成長に貢献することは困難です。また、自分の業務が組織全体の目的や目標にどう関連していて職務を成功させることでどんな貢献をすることができるのか、これが明確であり、会社から職務を成功させるための多くのサポートがあれば自然と組織の一員としての意識が高まりモチベーションの高い従業員が生まれ、個人の成長と共に会社の成長も望める、というごく単純かつ重要な方程式です。

「なるほど」ですよね。が、しかし!「なるほど」とは思うけれど、そう簡単にはいかないんだよなぁ、が現実と感じられておられる方も多いのではないでしょうか。



では、人事考課の何が厄介なのでしょうか。いくつか要因があると思いますが、ジョブディスクリプションの認識・活用が大きな鍵を握るのではないでしょうか。管理職者と従業員の間で上述のことが200%同じ理解であるのならば、文字に落としたジョブディスクリプションが必ずしも必要なわけではないでしょうから、ジョブディスクリプションの存在しない組織もあると思います。ただし、個人個人の物事を理解する感覚は千差万別です。行間に込められた期待を理解しあうのが当然という日本文化の中で育った日本人同士でさえ家庭環境や志向の違いはミスコミュニケーションを生む可能性を生み出すものですが、個々人が様々な文化や言葉、生活環境などのバックグランドを抱えるアメリカでは、言葉にし文字にしてお互いに理解しあい納得することは、特に職場という組織の目的や目標のある環境において個人が成功を収めるためには重要なアクションです。

ジョブディスクリプションの存在の重要性をなんとなくおわかりになっていただけたと思いますが、ではジョブディスクリプションは何が書かれているべきでしょうか。
ジョブディスクリプションにはいくつかの役割があります。上述の人事考課の重要なツールであることは言うまでもなく、サラリーレベルやジョブタイトル・ペイグレードの確立、ミッションの明確化、差別禁止法に基づいたリーズナブル・アコモデーションマネージメントや就労時間及び賃金のルールである公正労働基準法(Fair Labor Standards Act = FLSA)の遵守ガイドライン、といった役割も果たす重要な書類であることをまずは理解してください。ジョブディスクリプションは従業員に業務遂行における簡潔明瞭なガイダンスを与えるものであると同時に、管理職者にとっては従業員が会社の期待に応えるパフォーマンスができているのかどうかを測るツールです。


ジョブディスクリプション作成の最初のステップは、業務内容の分析です。解雇を想定して従業員のパフォーマンスマネージメントを行われるわけではありませんが、万が一パフォーマンス不良による解雇が必要になった際、従業員がしっかりと会社の期待するところを理解している状況の下、その期待に応えられなかったことを会社が証明できなければ、不当解雇という従業員の訴えに和解調停人や陪審員や裁判官の共感が傾きやすいものです。そこで、この会社の期待を明確に表す必要があります。

ジョブディスクリプションを作成するにあたり、最低でも以下のポイントについての分析が必要です。
• そのポジションにおける職責、その職責を果たすための基本的なタスクは何か
• このポジションに対し会社が期待するレベルや成果、ポジションに従事する従業員のコンダクト
• それぞれのタスクを遂行するために必要な条件:
• 知識、スキル、能力(コンピテンシー)、身体的能力、経験値、学歴・教育

既に業務にあたっている従業員のジョブディスクリプションをこれから作成するのであれば、または新しいポジションを設置するために新しいジョブディスリプションを作成する場合は、現在そのポジションに従事している、または同様のポジションに従事している従業員にファーストハンドの情報をインプットしてもらうのが効果的です。実際に業務にあたっている個人でなければわかり得ないインサイトを入手できる可能性があるためです。ただし、ジョブディスクリプションは会社の期待を従業員に伝達するツールですから、従業員が作成するものではありませんので誤解のありませんよう。


これらの点を分析し情報を整えた後、明確で正確な表現でこれらの情報をまとめます。従業員の成長度合いやマーケットの変化等によりミッドイヤーでジョブディスクリプションをアップデートしなければならないこともあり得ます。ジョブディスクリプションに記述されている情報は常に旬なものであることを忘れずに、従業員のパフォーマンスマネージメント・モニタリングを行い、必要に応じて改定をします。途中で業務内容に改定があったことを従業員が「知らなかった」ということがないように。


業務内容のアウトラインの分析ができた後に、ポジションの必須機能について分析します。それぞれのタスク遂行の頻度やそれぞれのタスク遂行にかかる所要時間、重要度(ポジションの目的を果たすために遂行必須なタスクなのかどうか、等)、他の形態でそのタスクが遂行できるかどうか、他の従業員に委託できるタスクなのかどうか、といった側面です。これは、ディスアビリティーや宗教をベースにしたリーズナブルアコモデーションの検討を行うことになった際のガイドラインとして重要なポイントです。業務内容のアウトライン分析時の身体的能力の分析も同様にこのリーズナブルアコモデーションのガイダンスとしてジョブディスクリプションの重要な一部です。


次にこのポジションの業務をFLSAの業務条件及び給与条件に照らし合わせ、エグゼンプトステータス、ノンエグゼンプトステータス、いずれが適切なクラシフィケーションであるかを分析・確認します。
これらの情報を収集し分析できた後、会社のジョブディスクリプションのフォーマットに落とし込みます。会社全体で同じスタンダードでジョブディスクリプションを用意できるよう、統一のフォーマットを使うようにしてください。
ジョブディスクリプションの構成は会社によって様々ですが、以下の項目が含まれていることが理想的です。

• ポジション名
• FLSAステータス(エグゼンプト・ノンエグゼンプト)
• 給与グレードまたはレンジ
• レポートライン(直属の上司)
• 作成日、会社の承認日
• 業務サマリー・目的
• 主な業務内容(タスク遂行の方法や頻度、重要度なども併せて)
• 業務遂行に必要なコンピテンシー
• 管理職としての職務
• 職場環境(屋内・屋外・温度、湿度、ノイズなど)
• 身体的能力条件(立つ、座る、歩く、かがむ、持ち上げる、運転する等)
• ポジションタイプ:フルタイム・パートタイム、規定の就労時間、シフト、就労日、オーバータイムが発生するかどうか/頻度、など
• 出張:出張の頻度や出張先目的地(エリア、国など)、宿泊を伴う出張かどうか、など
• 学歴、経験:業務に直接関連していること
• その他の条件:ライセンスやサーティフィケート、特定の業界での就労経験やツールの使用経験など
• ディスクレイマー:このジョブディスクリプションがポジションの職務を遂行するための全ての側面をカバーするものではなく、状況に応じて事前のノーティスなく新たなタスクが追加されたり指示されたりすることがあることを含みおく。
• 管理職者と従業員の署名、署名日欄

ジョブディスクリプションはそれぞれの直属の従業員に対し管理職者(人事考課者)が作成するものです。ただし、従業員に渡す前に、必ず会社の承認を得てください。それぞれの従業員の職務が会社のミッションやビジョン、バリュー、会社の目的や目標にマッチしていることの確認と法の遵守ができているかどうかを、会社が確認する必要があるためです。


ジョブディスクリプションの作成は、作り慣れていなければなかなか時間も労力もかかるものです。日々の業務に追われなかなか手が付けられない、コンセプトはわかるが実際にはどうしてよいのかわからない、英語力に自信がない、など、ジョブディスクリプション作成に手が付けられない方々もいらっしゃると思います。そのような場合は、私どものようなベンダーをご利用いただくのもひとつの方法です。ただし、ベンダーを使う場合も、決してベンダー任せにせず、前述の分析は行ったうえでしっかりとベンダーにそれらを伝えることだけは忘れないようにしてください。

新年度開始時には、または、既にジョブディスクリプションを持つ従業員の上司として着任された場合、新入社員を迎え入れた場合は、必ず従業員それぞれのジョブディスクリプションを把握したうえで、従業員が会社の期待を理解しているかどうか、自分の職責は何か、職責を果たすためのタスクは何か、今年度のゴールの確認など、新しい関係のキックオフミーティングを行い、従業員とともにパフォーマンスプランを作成したうえで、定期的なパフォーマンスレビューのスケジューリングなど、従業員の職務遂行成功のために自分がどのようなサポートができるのか、具体的に示すことも重要です。

従業員の成功、生産性の高い職場づくり、ひいては会社の成功は、全て、適切なジョブディスクリプションから始まる、と言っても過言ではないのではないでしょうか。

大矢まどか
人事アウトソーシング担当