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2019-04-24
Newsletter April 2019 : テレコミューティングについて考えてみる
テレコミューティングについて考えてみる

従業員から在宅勤務をしたいと相談されたことはありますか?

テレコミューティング/在宅勤務の頻度に関して昨年末に行われた調査によると、世界の労働人口の3分の1が「常に/非常に頻繁に」と回答したそうです。オフィステクノロジーが急速に進化を遂げ、多くの職種、特に専門職の業務遂行が場所を選ばなくなった現在、テレコミューティングは決して珍しい勤務形態ではなくなったことは確かです。数年以内には世界の全労働人口の半数をミレニアル世代*が占めると言われ、また、ジェネレーション・Z層**が労働人口として今日の社会に進出し始めております。このような人材の確保とサステイナブルな会社経営の継続のために、企業はテレコミューティングという就労形態について真剣に考える必要に迫られていると言えるでしょう。

*ワーク・ライフバランスを重要視しフレキシブルな就労形態を好む
**テクノロジーに慣れ親しんで育ち、オフィスに毎日出勤することに意義を見出さない最新世代といわれる

在宅勤務の営業担当者(エグゼンプト社員)を雇用しておられる企業様は、テレコミューティングポリシーがあり、遠隔地の従業員管理の感覚をお持ちかと思いますが、そんな貴社でも、ノンエグゼンプト社員が在宅勤務を希望した場合でも対応ができる準備はできていらっしゃいますか?

読者からの人事関連の質問への回答をテーマで扱うある記事で、「どうしたら会社に在宅勤務を承認してもらえますか?」「うちの会社は、ある部署では在宅勤務が承認されているのに、私の部署は承認されません。公平な社員対応とは言えないのでは?」という質問に、人事専門家の筆者がこう回答しています。

「会社が在宅勤務を承認するかどうかは、会社の方針によるもの。在宅勤務を承認しない、または一部の従業員にしか承認しない雇用主の一般的な理由として二つ挙げることができます。一つ目は、チームワークを重視するカルチャーであることから、従業員がオフィスで業務にあたることを基本としている場合。二つ目は、職務柄、在宅勤務が難しい場合。テクノロジーの進化をもってしても、実際に現場にいなければ遂行できない職務も多く存在します。または、マネージャーが一連の業務フローを管理し、一定以上の生産性を継続させるための微調整を行うことが必要な場合。遂行業務の内容というよりは、業務チェーンの一環としての役割を十分に果たすためには、チームメンバーと一緒に現場にいる必要がある場合です。会社に在宅勤務が承認されない場合は、フレックス制の勤務時間やコンプレスト・ワークウィーク(週5日勤務を同じ合計の就労時間で週4日勤務とする、といった形態)をリクエストしてみてはいかがですか?」

そうそう。やっぱり従業員には会社に来てもらわなければ困るよなぁ、と頷いている方もいらっしゃると思います。では、本当に在宅勤務は雇用主にとってマイナスな勤務形態なのでしょうか。在宅勤務のPros(良い点)とCons(悪い点)を分析してみましょう。

まずは、Prosから。
1. 従業員の業務の生産性向上:同僚との無駄話や突然のミーティングに駆り出されることが少なくなる。または、オフィス内での雑音といった業務の妨げになる要因から解放されるため、在宅勤務の従業員は仕事に集中しやすく、効率良く業務にあたることができ、結果、生産性が向上したとの統計が出ている。

2. 従業員のストレス低下:ニューヨークの労働者は、朝の満員電車での通勤で1日が始まります。他人と体が触れたり、急に電車が止まって動かなくなるといった理由から発生するイライラに始まり(車通勤の方は交通渋滞にはまる場合、同じ気持ちになるのではないでしょうか)職場では同僚との人間関係、落ち着かない職場環境などストレスでいっぱいです。自宅での勤務であれば、これらのストレスから解放されて業務に集中できることから、従業員の幸福感が向上し、やる気に繋がる、という構図です。

3. 人材の確保に役立つ:就労人口の大半を占めるミレニアル世代以下の若年層の就労者を惹きつけることができる。ミレニアル世代はプレッシャーが苦手。更にワークライフバランスを重要視することから、在宅勤務を望む割合が高く、フレキシブルでカジュアルな職場環境を提供できる雇用主を選ぶ傾向にある。また、既婚者である従業員からは在宅勤務は結婚生活に大いにプラスの影響があるとのアンケート結果も出ており、ミレニアル世代にとっては欠かせない勤務形態の選択肢と言える。

4. 経費の削減:オフィスで勤務する従業員が減ることで、小規模なオフィスで済む。またオフィス家具、光熱費、雑費を大きく軽減できる。(企業規模が大きければ大きいほどこの効果が望める。)

5. Go green!:環境への配慮を重要視する雇用主にとっては、環境への影響が気になるところ。在宅勤務者が増えることで通勤者が減少し、車の排気ガスの発生や、大型ビルの光熱システムの排気による大気汚染の減少に貢献できる。(グリーンな経営をミッションとしている企業にとって、ミッションやバリューに沿った姿勢と、評価される。)

いずれの良い点も納得がいくものだと思いますが、せっかく導入したテレコミューティングポリシーを見直し、全従業員の在宅勤務を廃止する大手企業が少なくないのも事実です。Yahoo、Best Buy、IBM、HPといった大手企業がそのリストに名を連ねます。

では、在宅勤務のCons(悪い点)とは?
1. 孤独感と組織への所属意識の希薄化から生じる転職の恐れ:業務を妨げる要因から解放される反面、人とのつながりが欠如してしまう。ズームやスカイプといったテクノロジーを導入すれば、ある程度の問題の解決にはなり得るが、あるアンケートに回答した在宅勤務者の3分の1以上が「雇用主がそういったテクノロジーを導入してくれない」と回答している。組織への所属意識が希薄なため、雇用主に対する愛着や忠誠心も育ちにくく、在宅勤務従業員は簡単に転職を考える傾向にある。従業員の意識や性格によっては周りの目を意識しない、またはプレッシャーを直接感じないことから、就労意欲が低下し、生産性が減退する可能性もある。

2. 従業員間のコラボレーションの欠如:カンファレンスコールやEメールのコミュニケーションには限界があり、チームとしての生産性や創造性が減退する。組織文化の育成も不可能。また、同じ場所にいるからこそ読める言外の空気をモバイルデバイスではなかなかつかみきれず、不完全なコミュニケーションで終わる。Prosリストにある“経費削減”効果に逆行するが、多額の費用を投資してオフィスのデザインを工夫し、従業員が望んでいる業務のフレキシビリティーを実現しながら(敷地内に、病院はもちろんのこと、保育所、美容院の設置や食事の対応など行き届いたライフサポートを準備する等)、コラボレーションやクリエイティビティ―を促進する環境づくりを積極的に行う企業も少なくありません。

3. コミュニケーションラグ:同じ場所に勤務していない従業員全員に、同じ理解と意識で業務に当たらせるのは至難の業。頻繁にコミュニケーションラグが発生する。それぞれの従業員が理解の仕方・価値観の違いから生まれる不足情報を独自の想像で穴埋めすることから誤解や衝突が生まれる原因に。

4. 従業員間の適度な距離の不足:従業員同士が業務にあたる距離が近ければ近いほどお互いのインタラクションが生まれやすくなる。職場の仲間としての良好な関係が築かれることから、長期の在職、従業員の雇用維持につながる。MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者が職場の関係構築について行った研究で、机と机の距離が遠くなればなるほど、コミュニケーションが希薄になり、その距離が30メートルを超えると、一切のコミュニケーションが発生しなくなる、との結果が発表されている。

5. 会社としてのリスク:在宅の”職場“スペースの管理が難しいことから、従業員が怪我や病気を患った場合の責任の所在の判断が難しい。食卓で業務にあたっていた従業員が、すぐ後ろのガスコンロでお湯を沸かしていて、誤ってヤカンをひっくり返し大やけどをしてしまった場合は労災の対象?また、従業員宅にセキュリティーの高いネットワークを導入せずに、従業員個人のインターネットで業務にあたらせたことから情報漏洩に繋がるといった被害に遭遇することも大いに考えられる。

では、どのようにテレコミューティングを導入すれば成功につながるのでしょうか。答えは組織や業態によって異なるため、成功につながる方程式を編み出すのは困難ですが、テレコミューティングの導入を検討する際、いくつかのポイントについてよく分析し、準備することが重要です。

1. 明確なポリシーを作成する。例えば、どんな職種が対象になるのか。自宅内で職場として確保するスペースやネット環境などの条件。勤務時間、休憩時間の明確化、報告の方法等の詳細。在宅勤務の申請と承認のプロセスを実施前に取り決め、誤解の無いように準備する。

2. テレコミューティング開始前に、できれば、自宅内の職場環境やインフラの確認を行ってから最終判断を下す。

3. “オフィス勤務”日を設ける。

4. ポジションを分析し、いずれのポジションでテレコミューティングが可能なのかを明確にしておく。また、管理する必要性が低い従業員を対象にすることが好ましいため、ポジションに就いてからの経過期間も考慮に入れることが望ましい。

5. グーグルハングアウト、スカイプなどを積極的に導入し、対話できるコミュニケーションツールを積極的に利用する。

6. 在宅勤務を希望する従業員の性格や環境をよく理解する。(在宅勤務に向いていない5つの性格と環境: 1. 人とのつながりを求める性格、また疎外感を感じやすい性格。2.気が散りやすい性格。3.仕事にそこまで熱意をもっていない。4.仕事中毒な傾向が見える。5.自宅に職場として確保できるスペースがない。)

冒頭でご紹介した記事には、「在宅勤務を承認してもらえるよう雇用主を説得するには、以下の準備をするように」というアドバイスが含まれていました。雇用主の視点からも申請を承認するかどうかの判断材料になると思いますのでご紹介いたします。

• どのような業務を自宅で遂行することができるか、具体例を用意する。
• フルタイム在宅勤務でオフィス勤務と同じ業務遂行が可能であることを文章で明確にする。
• 在宅勤務を承認することで、雇用主にどのような利益が発生するのかの説明。
• 他社で同様の業務を担当している就労者が在宅勤務で成功している例。
• 上司とのコミュニケーション、業務報告の効果的な方法の提案。

「完全な在宅勤務の導入はまだ不安」という場合は、フレックスタイムやコンプレストウィークから始めてみるのも、従業員エンゲージメントのツールとして、役立つ方法なのではないでしょうか。以前の職務でお付き合いのあった、ある日系の企業から、夏季は従業員が少しでも長い週末を楽しめるようにとの計らいから、金曜日は午前中のみの勤務スケジュールとし、午後の勤務時間を月曜日から木曜日に割り振りされているとお聞きし、うらやましく思ったことをよく覚えています。もう10年以上前のことです。そして10年を経て、弊社ではフレックスタイム制を導入いたしました。アップルやアマゾンのような巨大な資金力を持つ企業と同じことはできなくとも、従業員の声に耳を傾けるなど、小さな組織でもできることは多々あるのではないでしょうか。

大矢まどか
人事アウトソーシング担当
Actus Consulting Group, Inc.