ニュースレター

2020-01-14
備えあれば憂いなし
明けましておめでとうございます。
本年も皆様のお役に立つ人事関連情報をお届けして参りたいと存じますので、
どうぞ宜しくお願い致します。

さて新年早々、寒波のニュースがテレビやラジオでも報道されていますが、皆様は如何お過ごしでしょうか?特に中西部や東海岸地域の企業様は、例年、この時期になると、寒波による臨時休業や従業員の早退の判断を下す必要が出てくるケースも少なくないはずです。そんな時、こんな疑問が湧いたことはないでしょうか?

「悪天候や自然災害により、従業員が勤務できない場合の給与は支払わなければならないのか?」

弊社のお客様からも実際にこのようなご質問を頂戴したことがございます。

もし、貴社の従業員からこのような質問が出た場合に答える準備はできていますでしょうか?今回は時期もあり、寒波を例に出しましたが、西海岸・南部などその他地域でも悪天候や自然災害が起き、雇用主の判断が求められる可能性は大いにあります。寒波、地震、豪雨、竜巻などが発生した場合に、まず雇用主として行うべきは従業員の安全確保です。そして、従業員の安全を確保した後に、別の責務であります従業員に対して支払うべき給与額の判断が必要になってきます。

そこで、先の質問に戻ります。
「悪天候や自然災害により、従業員が勤務できない場合の給与は支払わなければならないのか?」

答えは。。。


イエスとノー、いずれも正解です。

何故か?既にお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、ここでポイントになるのが、これまでにも何度かご紹介させて頂きましたFLSA(The Fair Labor Standards Act) = 公正労働基準法上の従業員の区分けです。つまりは、エグゼンプト従業員かノンエグゼンプト従業員のいずれに区分けされるかで答えが異なるのです。

答え合わせの前に先ず理解しておいて頂きたいのが、エグゼンプト従業員とノンエグゼンプト従業員の区分けについてです。区分けに関して、過去の記事でご説明させて頂いておりますので、従業員区分けが不透明な方はこちらの記事をご覧下さい。
https://actus-usa.com/newsletter_employer/Jp/1238

まずはエグゼンプト従業員からです。エグゼンプト従業員については、ほとんどの場合、満額の給与支払いが必要ですので、答えはイエスです。例えばある日、悪天候の恐れがあり、エグゼンプト従業員を早めに帰宅させた場合にも、1日分の給与支払いがなされることはもちろん、また別のある週に悪天候により、5日間勤務する予定が、2日間の勤務になってしまった場合であっても、満額の週給が支払われます。但し、雇用主からエグゼンプト従業員への給与支払いが必要でない例外ケースも存在します。例えば、悪天候でまる1週間会社が休業し、エグゼンプト従業員が当該の1週間、全く仕事を行わない場合に限り、エグゼンプト従業員に対して給与を支払う必要はありません。また、悪天候ではあるが会社は通常営業している状況で、エグゼンプト従業員が個人的な理由で休みを取得するケースも給与支払いの義務はありません。

次にノンエグゼンプト従業員の給与支払いのルールについてです。FLSA(The Fair Labor Standards Act) = 公正労働基準法の規定により、雇用主がノンエグゼンプト従業員への給与支払いを求められるのは、ノンエグゼンプト従業員の合計実働時間(Hours Worked)に対してです。従って、悪天候によって会社が1日休業した場合や、通常営業時間よりも早く業務を終了した場合においては、ノンエグゼンプト従業員は通常通りの勤務を行うことができませんので、勤務がない期間の給与の支払いを求めることはできません。しかしながら、州法でReporting time payが定められている場合には、雇用主からノンエグゼンプト従業員への給与支払いが求められるケースもあります。エグゼンプト従業員、ノンエグゼンプト従業員の扱いにおいては、例外が適用されるケースの判断が重要となります。

☆Reporting time pay: 別名Show-up time。雇用主がノンエグゼンプト従業員に対して休業などの案内を適切に行わなかったことにより、従業員が出勤。遂行できる業務がなかったり、帰宅を促され、勤務が発生しない場合にも給与の一部を支払うことが保証される。

悪天候や自然災害のケースでは、雇用主がエグゼンプト従業員・ノンエグゼンプト従業員に対して、PTO(有給休暇)の使用を要求するケースもあります。この場合、ノンエグゼンプト従業員が万が一PTOを使い切ってしまっている場合で、且つReporting time payなどの州の法律が定められていない場合には賃金の支払いを求めることができません。

従業員にPTO使用を求める場合には、事前にポリシーを作成しておくべきです。また、雇用主側は強制的なPTOの使用が認められるか否か州法に照らし合わせる必要もあります。ポリシーに含むべき内容としては悪天候や自然災害が発生した場合に、「会社が通常営業するのか」はたまた「営業時間の変更があるのか」などの連絡をどのように行うのかを定めておくこと。もし出勤できない場合は支給される給与額に変更が生じるのか否かを明確にしておくことなどが挙げられます。
また、Collective Bargaining Agreement(雇用主と労働組合の間で締結される労働協約)の内容によっては、従業員に対して最低保証給与額の支払いが雇用主に求められるケースもあります。

悪天候や自然災害の場合の給与支払いルールについてお分かり頂けましたでしょうか?

今回の質問は一見、簡単な質問にも見えますが、実は非常に深い質問です。この質問に答えられるか否かで、複数の人事領域に対する備えができているか(エグゼンプト従業員とノンエグゼンプト従業員の区分けができているか、万が一を想定してハンドブックやポリシーが作りこまれているか、ビジネスを行っている州の法律を理解しているかなどの大事なポイントを確認する内容とも言えます。

ここまで冒頭にご紹介しました質問に答えるべく、法律の観点からお話をさせて頂きました。法律を遵守することは雇用主の責務であり、当然のことではありますが、法律を守ってさえいれば、従業員の個々の状況を検討してあげなくても良いということではありません。今回のケースでは、法律上、ノンエグゼンプト社員に対して、給与支払いの義務はないかもしれませんが、ノンエグゼンプト従業員の気持ちになって考えた時に、給与が支払われない状況、更にはその旨がハンドブックやポリシーで定められていない場合にはわだかまりを残しかねません。

従業員に支払われるべき給与額が支払われない場合はもちろん法律違反ですが、法律上は給与を支払わなくても良いという状況で、給与を支払わない判断が必ずしも得策であるとは思いません。もちろん、各企業の財務状況やハンドブックの規定などにもよりますが、例えば、連邦法と州法で最低賃金が異なる場合には、「従業員にとってより利益となる内容を優先する」ように、従業員に対して真摯に向きあい、エンゲージメントやコミットメントレベルを高めていくことも、雇用主としての大切な役割です。

働く気で出勤したのに、給与が支払われない場合にどのような気持ちになるのか?または、家族との休暇を過ごそうと思って貯めておいたPTOの使用を、雇用主から求められたらどのような気持ちになるのか?雇用主という立場上、バランス感覚を保つのは非常に難しい作業ではありますが、従業員の立場に立って法律を解釈することも雇用主としての大事な業務であることも付け加えておきたいと思います。 

山田明宏 Akihiro Yamada
Midwest/South Regional Sales Manager
Actus Consulting Group, Inc.