ニュースレター

2020-02-26
リーダーになれる人なれない人
新型コロナウィルスのニュースで世界中が揺れています。連日、各国の首脳や各機関の責任者の対応がメディアに取り上げられ、「あの国のリーダーシップは素晴らしい!」「この国の首脳はリーダーシップが発揮できていない。」などメディアや世間から評価が下されています。中には今回の騒動で、強力なリーダーシップを発揮し、これまでの評価を一転させている首脳もいます。新型コロナウィルスの話題で、リーダーシップが議論されているのは主に政治の世界ですが、他の分野でもリーダーシップについて触れられる機会はたくさんあります。

皆様に一番馴染みがあるのは企業でのリーダーシップについてだと思います。CEOはもちろんDirector, Manager, Supervisor, ひいては小さなプロジェクトの担当者であってもリーダーシップを求められる時代です。リーダーシップを発揮する場はそれだけに留まらず、学校の生徒会長や部活動のキャプテン、さらには友人同士の集まりの幹事までリーダーシップを発揮する機会があります。

ではこの「リーダー」や「リーダーシップ」という言葉を聞いて、皆様は何を思い浮かべるでしょうか?毎年、ビジネス誌のFortuneでThe World’s 50 Greatest Leadersと題して様々な分野のリーダーが発表されています。ここ数年のランキングを見るだけでも実に様々なリーダーがいるものだなと勉強になります。
ランクインしている方のお名前をいくつか挙げると、

ビジネス界:ビル・ゲイツ夫妻、ティム・クック氏、ジェフ・ベゾス氏、イーロン・マスク氏

政界:ジョー・バイデン氏、アンゲラ・メルケル氏

芸能界:オプラ・ウィンフリー氏、シャキーラ氏、テイラー・スウィフト氏

スポーツ:レブロンジェームズ氏、ステフィンカリー氏

日本の方に馴染みがあるお名前としては、柳井正氏、孫正義氏など一部を挙げるだけでも実に豪華な顔ぶれです。では、上記の皆さんは優れたリーダーでしょうか? 

人それぞれ優れたリーダーの定義は異なるものだと思いますので、異議を持たれることもあるかもしれませんが、組織を代表する要人であったり、多くの人々に対し多大なる影響力を持つ人物ばかりで、間違いなくそのリーダーシップには目を見張るものがあります。強力な組織を形成したという点から考えれば、リーダーシップのスタイルは違えども、皆さん優れたリーダーであると言えるのはないでしょうか。

リーダーシップという言葉には馴染みがある一方で、リーダーシップとは何か?リーダーシップスタイルの違いとは何か?という問いに対しては答えに窮する方も多いのではないかと考えます。

そのリーダーシップについて非常に興味深い研究をした方の一人に、ダニエルゴールマン氏がいます。同氏は今では非常に馴染みのある言葉であるEQ (こころの知能指数)を研究された方としても有名ですが、論文 “Leadership That Gets Results”の中で6つのリーダーシップスタイルについて述べており、優れたリーダーはそのリーダーシップスタイルを絶えず使い分けていると結論付けています。6つのリーダーシップスタイルは以下の通りです。

➀ Coercive (強圧型)
➁ Authoritative (権威主義型)
➂ Affiliative (親和型)
➃ Democratic (民主主義型)
➄ Pacesetting (先導型)
➅ Coaching (コーチ型)

それぞれの特徴を簡単にご紹介致しますと、

➀ Coercive (強圧型)を一言で纏めると “Do what I tell you.” 。強圧型という言葉がピッタリですが、周りに対して即座に服従することを要求します。その強引なリーダーシップスタイルから従業員のやる気やモチベーションを下げてしまう為に、ほとんどの環境や状況で一番望ましくないリーダーシップスタイルとされています。但し、危機的状況や問題が起きた時にはトップダウンの指示で早急な業務改善を促しますので、効果的だとされています。

➁ Authoritative (権威主義型) を一言で纏めると “Come with me.”。新しいビジョンが必要な変革期に効果的なスタイルです。権威主義型はチームにゴールを示しますが、達成手段については新しい方法を生み出したり、実験を重ねたり、あるいは想定内のリスクを負うことに自由裁量を与えます。このスタイルが周りに与える好影響からほとんどの状況で効果を発揮しますが、チームメンバーがリーダーよりも専門知識を持っていたり、経験がある場合は効果が薄れてしまいます。

➂Affiliative (親和型) を一言で纏めると “People come first.”。チーム内に感情的な絆を築きます。絆が生まれたチームは会話が生まれ、アイデアを共有するようになり、新たな取り組みをすることに前向きになります。チーム内にポジティブな雰囲気を作ることが特徴ですが、親和型のみのスタイルでチームを率いることにはリスクがあります。その理由として、親和型のリーダーはチームに対して状況を改善させるための建設的な意見を言うことが稀なので、従業員は自身で改善策を生み出すことが求められてしまいます。

➃ Democratic (民主主義型)を一言で纏めると “ What do you think?”。チームの賛同を得る時や優秀な社員の意見を引き出したい時、また、リーダーが明確なビジョンを持っていない状況に効果的なスタイルです。チームの悩みや意見を聞くことでチーム内のやる気を高め、維持するために何をすべきかという点を明確にします。一方で長時間のミーティングを経ても、意見の一致に至らなかったり、様々な事柄に対して熟考しすぎてしまうなどの欠点もあります。

➄ Pacesetting (先導型)を一言で纏めると “Do as I do, now.” 即座の結果が必要とされる状況には効果的なスタイルです。リーダーは高い業務水準を設定し、自らどのように成し遂げるのかをチームに示します。一方で過度に結果を求める為に、結果が出せない社員を探しては、業績の向上を強く求めたり、それでも結果が出せない場合には、結果を出せる従業員に入れ替えることも検討してしまいます。そのスタイルの影響から従業員に負担が掛かり、やる気を削いでしまうという悪影響もあります。

➅ Coaching (コーチ型)を一言で纏めると “Try this.”。将来を見据えた人材育成の為に、長期的な視点で従業員の能力を向上させるというスタイルです。6つのリーダーシップスタイルの中で一番用いられていないという調査結果も出ています。調査対象者にその理由を確認したところ、即座の結果が求められる現代社会では、従業員の成長を待っている時間はないという理由が挙げられています。コーチ型は従業員が自身の弱点に気づいており、改善したいという気持ちが整っている時に最も効果を発揮します。

2000年に発表された論文ですので、それぞれのスタイルの使用頻度や多少の違いは起きているかもしれません。ただそこには普遍の真理が内包されており、2020年現在でもリーダーやHR担当者が押さえておくべきリーダーシップスタイルとして紹介されているものです。先に述べたFortune誌に掲載されているリーダーの方々やご自身のリーダーシップスタイルと比較された方もいるのではないでしょうか。リーダーが持つべき資質は国や文化の違いによっても異なりますが、あらゆる国や状況でリーダーが有すべき特徴として下記が挙げられます。

Trustworthy, Honest, Encouraging, Positive, Decisive, Effective, Organized….

私はリーダーに向いていない。そんな立派なスキルは持ち合わせていない。そんなに器用ではないとお感じになる方もあるかと思います。ですが、ダニエルゴールマン氏はリーダーシップスタイルは学ぶことができると述べています。リーダーシップを生まれ持っているという方は確かに存在すると思います。ただ、それは生まれ持って運動神経が良い人がいる、IQが高い人がいるのと同じことで、適切な環境で努力を行っていけば、元々の才能がある人にも追いつき追い越すこともできるのです。できるリーダーになる為には、リーダーシップの種類や効果を学び、失敗を繰り返しながら学んでいくことが一番重要です。3月、4月は駐在員やローカル社員の入れ替わりが特に多い時期だと思います。新しいチームを率いる際に、上記リーダーシップスタイルを意識して業務に臨まれてみては如何でしょうか?

Akihiro Yamada(山田明宏), MBA, SHRM-SCP
Midwest/South Regional Sales Manager
Actus Consulting Group, Inc.