ニュースレター

2018-06-26
Newsletter June 2018: ”I-9のRULES OF ENGAGEMENT”
多少なりとも人事管理業務に関わる方であれば、”I-9”への馴染みは深いものと思われますが、御社のI-9のコンプライアンス度はブレットプルーフですか?タイトルのRule of Engagement(=交戦規則)は少々大げさな表現ですが、I-9管理は実は移民法によって雇用主に課せられている重要な義務です。特に現政権の移民法ポリシーにより移民局による取り締まりが厳格化しており、今年の監査件数は昨年度の4~5倍に増加。9月末の会計年度末を目前にICE(The U.S. Immigration Customs Enforcement)の最後の追い込みが予想されています。大型検挙を狙っていることから、不法就労者を抱えているだろうと想定される製造業者などがターゲットになっており、大抵の日系企業がICEの監査を受けることはないものと思いますが、決して受けないとは言い切れません。Form I-9の取り扱いはそう難しいことではありません。しっかりとルールを理解してさえいれば怖い物無しです。ルールを理解していなければ、知らず知らずのうちに法を犯すことになりかねません。


Form I-9にまだ馴染みの浅い方のために、簡単にForm I-9のご説明から。

The Immigration Reform and Control Act of 1986という移民法によって全ての米国の雇用主には社員を採用する際にその個人が合法的に就労することができるステータスを所持しているかどうかの確認することが義務付けられており、Form I-9に正しく必要な情報を全て記入することで、この義務を間違いなく履行したことが証明されます。Form I-9は移民局が作成するフォームで定期的に改定されるため、記入日とそのフォームの有効期限がマッチしているかどうかも重要なポイントです。

記入されたI-9を移民局に提出する必要はなく、監査が入らなければI-9の義務を怠ったところで何がどうということもありません。ただし、万が一監査が入った場合は立派な違法行為の発覚となり、記入方法を間違っていた、というようなテクニカルなエラーに関しては訂正で済みますが、I-9が存在しなく、社員の合法的な就労ステータスを証明できなければ、不法労働者であることを承知のうえで採用し、雇用し続けた悪質な雇用主と判定されかねず、高額な罰金はもちろんのこと悪質な雇用主またはマネージャーとして刑事的に起訴されることもありえます。また、現在雇用中の社員だけが対象ではありません。I-9は離職者に関しても保管しておかなければならない期間についての規定があるためです。離職者のI-9は、入社日から3年間または離職時から1年間のいずれかの方法で保管期間の長い方が適用されます。(入社日から1年後に退職した社員の場合は退職後も2年間は保管が必要、ということです。)


上述どおり、新入社員を採用する度に、ルールを守ってきちんと対応しさえすればそう難しい作業ではありません。そこで今回はこのI-9の取り扱いルールについて、Q&A形式でいくつかのポイントをご説明いたします。


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Q:I-9は雇用主が記入するものですか?

A:I-9は3つのセクションに分かれています。セクション1は社員自身が記入するものです。セクション2は雇用主が社員の記入したセクション1の内容に誤記がないかどうかの確認を行い就労証明書を実際に確認した上で記入します。(実物を肉眼で確認しなければなりません。)セクション3は、社員の就労ステータスに変更があった場合(有効期限、就労ビザの変更など)に記入する箇所です。


Q:I-9の記入が不完全でも社員の就労ステータスの証明書のコピーを添付しておけば良いのでは?

A:答えはNOです。そもそも証明書のコピーの添付は義務付けられていません。I-9は証明書の添付がなくても全ての情報が入手できるものでなければいけません。ただし、証明書のコピーの添付しておくことによって監査の際に役にたつこともあります。例えば、万が一社員が偽造の証明書を提出していたとしても、雇用主が十分に本物の証明書であると信じるに足るものであったことを主張することができます。また、I-9の記入が不完全であっても正しい証明書が添付されていることで、雇用主の法の遵守に対する誠意を認められ、罰金を免れることも多々あるようです。州によっては(コロラド州、テネシー州、ルイジアナ州)証明書のコピーの添付が義務づけられている場合もありますので、州法をご確認ください。I-9の記載が不完全で、訂正が必要な場合の情報ソースにもなり得ます。
ただし、証明書のコピーの添付を行うことで、リスクも抱えることになります。例えば、明らかに偽造、本人のものではないことが分かっていながら雇用したことが証明されてしまったり、また、証明書のコピーを取る社員と取らない社員がいた場合、Discriminationの疑いが発生しかねません。また、I-9上の情報及び証明書のコピーが第3者の手に渡れば重要な個人情報の漏洩です。その社員はIdentity Theftの被害を被る可能性も非常に高く、よって厳重に管理を行う必要があります。


Q:就労ステータスの証明書とはどんなものですか?

A:I-9のインストラクションに含まれているリスト(LISTS OF ACCEPTABLE DOCUMENTS)にある書類でなければいけません。List Aの書類であればそのうちのいずれか一つ、List BとList Cからの書類であれば、List B から一つ+List C から一つ=二つの資料が必要です。List A には米国のパスポートやグリーンカード、EADが含まれていますので、これらであれば1通でかまいません。ただし、ここで注意が必要なのは、雇用主が、証明書の種類の指示をしてはいけない、ということです。うっかり「勤務初日には米国のパスポートを持参してください。」といった指示を出すことで、CitizenshipやNational Originをベースに雇用上のDiscriminationを行う企業だと判断されかねません。従って、新入社員には入社前に、I-9のフォームをインストラクション付きで渡しておき、勤務初日にはI-9のインストラクションに従って適切な就労ステータスの証明書を持参するように、という指示を出すのが正解です。


Q:不法労働者を雇用したくないので、面接の際にI-9の記入と就労ステータスの証明書を提出するように求職者に指示を出してもかまいませんか?

A:答えはNOです。面接時に米国で合法的に就労するステータスを持っているかどうか、就労するために雇用主のビザサポートを必要とするかどうか、といった質問はかまいませんが、証明書の種類を訪ねたり、証明書を実際に提示することを求めることはできません。オファーした内定を求職者が受諾し入社が確定した時点以降であればかまいません。


Q:新入社員が勤務初日に就労ステータスの証明書を提出できない場合はどうするとよいのでしょうか。

A:I-9の記入はオファーの受諾から勤務初日までに行わなければなりませんが、就労ステータスの証明書の提出は入社日を含め3営業日間は社員に対し提出のための期間を与えなければなりません。3営業日以内に証明書を提出できない場合は(コピーは不可です。)違法就労者と判断し採用を取り消しましょう。その社員の人種、国籍、性別等、法律で守られている”クラス“に関わらず、就労ステータス証明書が提出できない場合の解雇は不当解雇にはなりません。
雇用主が記入するセクション2は、新入社員の入社日から3営業日以内に記入をしなければなりません。その間は社員の証明書提出の猶予期間として待たなければならない、ということです。


Q:インターンもI-9の記入が必要ですか?

A:無給のインターンであれば不要です。ただし、給与の支給はなくても交通費や食費を支給する場合は就労者同様にI-9の対応が必要です。ギフトは対象外です。


Q:数名の社員のI-9が見当たりません。どうしたら良いでしょうか。

A:新入社員同様の対応で現在有効なフォームに現在有効な情報を用いて(入社時のものではなく)I-9の記入と証明書の確認を行ってください。この際、勤務開始日は実際の入社日ではなく、記入日としてください。移民局の監査と同時に労働局の監査が入ることも多々あり、その場合はタイムシートやペイロールの書類の提出も同時に求められることもありますので、入社日に記入したI-9が紛失されたため新しく書き直した旨を別紙に記載し、添付しておくとよいかもしれません。義務ではありませんが、雇用主の誠意を見せるという観点からのおすすめです。


Q:州外の自宅勤務の社員をリモートで採用しました。I-9の記入と証明書のコピーを添付してPDFでEメールで送らせても確認になりますか?

A:答えはNOです。就労ステータスの証明書は実際に雇用主側の代表が実物を見て確認しなければなりません。また、I-9は実物の保管が必要です。ただし、必ずしも雇用主がI-9の確認者である必要はなく、代理者を雇うことは可能です。ただし、代理者のアクションに関し責任の所在は雇用主にあります。代理者が実際には証明書を確認しなかったにもかかわらず、虚偽の情報をI-9に記入したり、偽造だとわかっていながら有効な証明書だと認めた場合も、雇用主がその責任を負うということです。
また、ウェブカメラを通しての証明書の確認は認められません。従って、スカイプなどを通してのオンボーディングプロセスの一部としてI-9プロセスを完了することはできません。


Q:米国のパスポートを証明書として提出した社員のパスポートの有効期間が切れてしまったことに気が付きました。新しい証明書の提出を求める必要がありますか?

A:答えはNOです。米国籍及び永住権所持者の就労ステータスの再証明は不要です。



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いかがでしょうか。新しい発見や、今まで気になっていたのだけれども確認できていなかったような情報はございましたでしょうか。
御社のI-9が全社員分(対象になる離職済の社員も含め)全て整っているかどうか、正確に全ての項目が記載されているか、是非レビューを行わえることをお勧めいたします。

補足ですが、I-9記入のために必要な就労ステータスの証明書以外に社員の雇用に関して確認が必要な重要なステータスがあります。I-94(滞在許可)です。就労ビザをサポートしている社員(H1B,L,Eビザ)の場合、アメリカに再入国し税関を通るたびにI-94が更新されますが、更新されないケースもあります。また、ビザの有効期限より前にI-94が失効する場合もあります。ビザの有効期限が3年後だからと言ってI-94を確認せずにいた結果、社員が知らず知らずのうちに違法滞在者になってしまうケースもあり得ますので、社員の就労ビザをスポンサーしておられる場合は、社員が出入国をするたびにI-94の確認を行うか、社員にI-94の有効期限の自己管理を徹底することをリマインドされることをお勧めいたします。


大矢まどか
Actus Consulting Group, Inc. 人事アウトソーシング担当